我儘

我儘
いまに僕ら姉弟を残すために、あなたは自身のすべてを犠牲にして生きてきた。
人生を共にと誓ってた伴侶を、早々に亡くしてしまって以降

父亡き後は交代制の仕事に就いて、土日も関係なくずっと働き続けてた。
そんな懸命な姿を見せつけながら、小学高学年の運動会、
休みがとれないと謝るあなたは仕事で来れず、子ども一人分の小さな弁当箱を携えて、級友の両親が確保してくれてたスペースに居候させてもらってた記憶。


そうして社会人としてこの世間に送り出された途端、糸の切れた凧のように夜な夜な外呑みに明け暮れてた。
平日であろうと午前様のご帰宅は、家の鍵を持っているのに毎度呼び鈴を鳴らし続け、時には「開けろ、馬鹿息子!」と容赦なく。
こちとら仕事で疲れて就寝のところを叩き起こされた迷惑行為に、「うるせえ、クソババア」てな応酬。

そんな親不孝の因果か、今ではそんな憎たらしくて忘れようもないはずの顔を見せに行っても「誰?」って怪訝な顔をされている。

何はともあれ、72歳のお誕生日おめでとう。

そんなであっても、まだまだ長生きしていてほしいと思うのは馬鹿な息子の我儘です。

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